ヨーロッパの南西部・ポルトガルの政府は今年10月15日、幼児教育から中等教育までを対象に、教育でのAIの責任ある利用に関する指針案の意見募集を開始しました。課題ごとに教師がAI利用の範囲を3段階で設定する考え方は、日本の授業設計や校内ルール整備にも参考になります。
指針案の全体像
ポルトガル政府は2026年10月15日、教育・科学・イノベーション省の発表として、教育における人工知能(AI)の責任ある利用に関する指針案を公表し、30日間のパブリックコメントを開始しました。対象は就学前教育、基礎教育、中等教育までの公私立学校です。最終版は2027年1月からの運用開始を見込み、同年1月4日に公表予定とされています。
この指針案は、AIを一律に推進・禁止するのではなく、教育目的、年齢、発達段階、学習活動の性質に応じて使い方を調整する考え方を採っています。文書では、AIは学習機会の拡大や参加の促進に役立ち得る一方、児童生徒の知的自律性や教員の教育的判断、権利保護、公平なアクセスを損なってはならないと明記されています。
最大の特徴は「3段階」の利用区分
今回の指針案で特に注目されるのが、教員が各活動ごとにAI利用の条件を事前に定める枠組みです。資料では、少なくとも次の3つのモードが示されています。
- AIなし:生徒の自律的な遂行状況を把握したい場面では、AIを使わない
- AIによる支援:教員が定めた目的や段階に限って、補助的にAIを使う
- AI統合:AIの利用そのものが課題の一部となり、分析や学習対象にもなる
重要なのは、AI利用の可否を学校全体で単純に二分するのではなく、課題ごと・授業ごとに細かく設定する点です。教員は、使用を認めるツール、使用できる場面、利用の申告方法、評価基準をあらかじめ示すことが求められています。
年齢に応じた慎重な設計
指針案は、就学前教育では子どもの遊び、探索、表現、対話を中心に据え、AIはあくまで教育者の補助として位置づけています。幼い子どもがAIを直接・自律的に使うことは想定せず、活用を推奨もしない姿勢が読み取れます。
基礎教育・中等教育では、AIは内容理解、練習、発想、知識整理、創作、問題解決の支援に使いうるとされています。ただし同時に、仕組みや限界を学び、誤りやバイアスを見抜き、情報源を確かめ、根拠に基づいて判断する力を育てることが重視されています。AIに答えを任せるのではなく、批判的思考を育てるための利用を目指している点が特徴です。
データ保護と学校向け支援ツール
資料では、個人情報保護と安全性も中心的な原則として扱われています。承認されていないツールに個人データ、成績、写真、機密情報を入力しないこと、画像・音声・動画の不適切な生成や拡散はデジタル市民性と安全の問題として扱うことなどが示されています。
あわせて、学校現場で使える支援ツールも5つ提示されました。具体的には、AI利用の可否を判断する「信号機」型の判断枠組み、授業前の確認リスト、課題でのAI利用表示、提出前の自己点検、学校として導入可否を検討するための手順です。単なる理念ではなく、運用に落とし込む設計になっている点は実務的です。
続報で示された位置づけ
10月16日の続報では、教育相がこの指針を法的拘束力のある規制ではなく、学校を支えるための指針として説明したとされています。つまり、全国一律の禁止命令ではなく、学校と教員が責任ある判断を行うための共通フレームを整える狙いです。
この立て付けは、技術変化の速い生成AIを扱う上で現実的です。詳細なルールを固定化しすぎるのではなく、原則と判断材料を示し、学校現場が学習活動に応じて調整できる余地を残しています。
日本の学校が参考にできる点
日本でも生成AIの議論は「使うか、使わないか」に寄りがちですが、ポルトガルの枠組みは「どの課題で、どこまで認めるか」を明示する発想を与えてくれます。たとえば、作文の初稿はAIなし、資料収集や論点整理はAIによる支援、探究の発表ではAI活用の妥当性自体を検討させるAI統合といった設計が考えられます。
校内ガイドラインを作る際も、教科別・課題別に利用範囲、申告方法、評価対象を整理すれば、教員間のばらつきや生徒の戸惑いを減らせます。AI利用を認めるか否かだけでなく、学習目標との対応関係を明確にすることが重要です。
💡 先生へのポイント
- 課題ごとに「AIなし・支援・統合」の3区分で利用範囲を決める
- 使用可のツール、使える工程、申告方法、評価基準を事前に示す
- 幼い学年ほど直接利用よりも、教員の補助利用を基本に考える
- 情報の正確性確認と個人情報保護を、AI活用指導のセットにする
- 学習目標が「自力で書くこと」なのか「調べて整理すること」なのかを先に明確にする
まとめ
今回のポルトガルの指針案は、学校のAI利用を単純な許可・禁止で処理せず、教育目的に応じて3段階で設計する実践的な考え方を示しました。日本の学校でも、授業や課題ごとにAI利用の範囲を見える化することで、学習効果と公平性を両立しやすくなりそうです。




