東京都武蔵野市の中学校・高等学校が、2027年度の「表現創造入試」でAIへの相談を認める方針を示しました。作品の完成度だけでなく、助言をどう受け止め、何を自分で選び直したかを評価する設計は、学校現場のAI活用ルールづくりにも示唆を与えます。
入試の焦点は「うまさ」よりも判断のプロセス
2027年4月に共学化・校名変更を予定する吉祥寺湧水中学校・高等学校(現・藤村女子中学校・高等学校、東京都武蔵野市)が、2027年度中学入試の新方式「表現創造入試」の正式テーマを公開しました。方式はアート、エッセイ、デジタル、ダンスの4つから選択でき、作品や文章、制作日記、当日の対話を通して受験生を評価します。
今回特に注目されるのは、作品制作でAIへの相談を認めている点です。家族、友人、先生、AIに相談しても、一人で進めてもよく、相談の有無だけで評価は変わらないと明記されています。評価の中心に置かれているのは、外部の助言を受けたかどうかではなく、その中から何を採用し、何を見送り、最終的にどう自分で決めたかという過程です。
制作日記と対話で「自分で考えた跡」を見る
アート方式では、テーマ「凸凹(でこぼこ)」に対して受験生が見つけた「でこぼこ」を自由な方法で表現します。提出物は作品だけではなく、制作日記も含まれます。制作日記には、気になったこと、試したこと、選んだこと、続けたこと、やめたことなどを、言葉・絵・図・写真で残せます。文字量や見栄えそのものは評価しない点も特徴です。
当日の対話では、「テーマを知ったとき何が心に残ったか」「途中で何を試し、何を変えたか」「誰に何を届けたいと思ったか」といった問いを通じて、作品の背景にある思考を確認します。学校は評価観点として「感じる力」「表す力」「届ける力」の3点を掲げ、作品・日記・対話を複数の評価者が総合的に見るとしています。
これは、成果物だけでは見えにくい学びのプロセスを、入試という選抜の場で可視化しようとする試みだと言えます。
AI利用を全面容認ではなく、利用条件と線引きを明確化
公式FAQでは、AIの案や画像を作品に取り入れること自体は可能とされています。一方で、「何を作り、どんな形・色・素材で表すか」は受験生本人が決める必要があり、すべてを人やAIに任せた完成品を自分の作品として提出することはできません。
制作日記についても、AIや周囲の大人ができるのは、本人の言葉を変えずに入力すること、写真を貼ること、誤字を教えることまで。文の書き換えや付け足しは認められていません。エッセイ方式でも同様に、相談はできても本文は受験生自身が書く必要があります。
さらに、AIやアプリの利用では、保護者と年齢条件・利用規約を確認し、条件を守ることも求めています。学校がAI活用を許可するだけでなく、年齢制限やサービス規約まで含めて扱っている点は、実務的にも重要です。
学校現場への示唆は「禁止」から「記録と説明」へ
生成AIをめぐる教育現場の議論は、提出物がAI作成かどうかを見抜けるか、不正利用をどう防ぐかに寄りがちでした。今回の事例は、その発想を一歩進めています。AI使用の有無を単純に善悪で分けるのではなく、使ったなら何を得て、どう吟味し、どこを自分の判断で変えたかを記録させる設計です。
この考え方は、探究学習、作文、作品制作、プレゼン準備などにも応用できます。たとえば、最終成果物の提出だけでなく、途中メモ、採否の理由、参考にした情報源、AIへの質問内容を残させれば、学習者の主体性をより見取りやすくなります。
一方で、課題もあります。家庭のデジタル環境差、AI利用経験の差、制作日記をどこまで公平に評価できるかといった点は、今後の検証が必要です。2027年2月実施予定のため、現時点では制度設計の段階であり、実際の運用結果まではまだ見えていません。
海外事例と比べても早い段階での実装
海外では、AI利用の申告書や、宿題でのAI活用を振り返らせる取り組みが話題になってきました。今回のケースは、それを日常課題ではなく、日本の中学入試という高い公平性が求められる場面に持ち込んだ点で新しさがあります。
しかも対象は大学受験生ではなく小学生です。だからこそ、学校側が「長く話せなくてもよい」「短い言葉や指差しでもよい」「日記の量や見栄えは評価しない」と明示していることには意味があります。表現力を広く捉え、説明の巧拙だけで不利にならないよう配慮した設計になっています。
💡 先生へのポイント
- AI利用の可否だけでなく、「何を採用し、何を採用しなかったか」を書かせる課題設計が有効です。
- 成果物だけでなく、途中の試行錯誤を残すワークシートや制作日記を用意すると、評価の納得感が高まります。
- 年齢制限、利用規約、著作権、素材の出典記録まで含めてAI活用指導を行うことが重要です。
- 話すのが苦手な子どもでも説明できるよう、口頭以外の表現手段を認める評価設計は参考になります。
まとめ
今回の入試の取り組みは、AIを「使ったかどうか」ではなく、「どう考え、どう選び、どう自分の表現にしたか」を見る入試として注目されます。入試実績の検証はこれからですが、AI時代の評価を考えるうえで、学校現場に多くのヒントを与える事例です。
出典:吉祥寺湧水中学校・高等学校|東京都武蔵野市の私立中高一貫校 https://kichijoji-yusui.ac.jp/admission/creative-expression-art/?type=art




