この度、みんがく社と笹埜健斗研究室が、生成AI基盤「スクールAI」を使った「学校知の継承」に関する共同研究を開始しました。授業や校務のノウハウを学校全体の資産として残す発想は、引き継ぎや若手育成に悩む学校・教育委員会に大きな示唆を与えそうです。
“教材づくりAI”の次に来るテーマ
株式会社みんがく(東京都中央区)と笹埜健斗研究室は2026年9月25日、「スクールAI」を基盤にした「学校知の継承」に関する共同研究の開始を発表しました。
今回の特徴は、生成AIの活用先を授業案作成や校務効率化だけにとどめず、学校の中に蓄積されてきた“経験知”の継承に向けている点です。対象は教材そのものだけではなく、授業での指導の工夫、行事運営の段取り、保護者対応の留意点、校内調整の方法など、ベテラン教員の実践に埋め込まれた暗黙知まで含まれます。
何を「学校知」として残すのか
学校知を「授業や校務の中で教職員が培ってきた知」と位置づけています。引き継ぎ資料があっても、「なぜその手順なのか」「どこに注意すべきか」という文脈は抜け落ちがちです。その結果、異動者や新任教員が同じ課題に一から向き合う構図が生まれます。
共同研究では、この課題を二つの軸で捉えます。ひとつは、同じ学校や自治体の教職員同士でノウハウやテンプレートを共有する「横のつながり」。もうひとつは、人事異動や世代交代をまたいで、引き継ぎ資料や実践記録を参照・更新できる「縦のつながり」です。
注目したいのは、AIを「先生の代わり」にするのではなく、「先生の経験を次の先生に渡す媒介」にしようとしている点です。教育現場では属人的な運営が問題化しやすい一方、完全なマニュアル化では現場の機微が失われます。その間を埋める仕組みとして、生成AIを知識整理・検索・再利用の基盤に使う発想は新しい切り口です。
研究の設計と検証ポイント
研究では、暗黙知と形式知が相互に変換されながら組織知が生まれる「SECIモデル」を理論枠組みに採用。教職員が経験を言葉やテンプレートとして表現し、他の教職員が共有・再利用し、実践を通じてさらに更新していく循環を設計するとしています。
研究期間は36か月。検証では、利用状況や共有・再利用の状況といった定量データに加え、教職員インタビューや現場観察などの定性データも組み合わせます。影響を見る項目としては、校務や引き継ぎにかかる時間、異動者・新任教員の立ち上がり、教職員の心理的負担や自己効力感などが挙げられています。
最終的には、他校・他自治体でも活用できる「学校知継承モデル」と実践ガイドラインの策定、さらにスクールAIに必要な機能要件の提示を目指すとしています。単なる実証実験で終わらず、横展開可能なモデル化まで射程に入れている点は重要です。
導入実績のある基盤で進む意味
研究基盤となる「スクールAI」は、教育分野特化型の生成AIプラットフォームで、200以上の教育アプリ用テンプレートを備えています。2026年4月時点で、導入校は1,600校以上、利用ID数は16万以上。塾・学校その他教育機関を含む実績があると公表されています。
また、Microsoft Azure OpenAI Serviceを利用し、入力データがAIの再学習に使われたり、外部に保存・共有されたりしない環境を採用していると説明されています。学校現場でナレッジを扱う以上、利便性だけでなく、データの扱いに対する説明責任が欠かせません。既存の教育導入実績がある基盤の上で研究を進めることは、現場実装の現実味を高めます。
学校現場が考えるべきガバナンス
一方で、このテーマは期待と同時に慎重さも必要です。保護者対応、生徒指導、校内調整にはセンシティブな情報が含まれます。何を蓄積してよいのか、誰がアクセスできるのか、異動後も残してよい情報は何か、といったルール整備が不可欠です。
とくに学校で扱うべきなのは、個人情報そのものではなく、判断の観点や対応の型、注意点の抽象化です。実名ベースの事例集を増やすのではなく、「どのような状況で、何を見て、どう判断したか」を再利用可能な粒度に整える必要があります。AI活用の成否は、技術よりも先に、この編集方針と運用設計にかかっていると言えます。
なお、共同研究の開始にあわせて、オンラインセミナー「職員室学―教室を支える、語られない知をひらく―」も開催されます。日時は2026年10月9日20時〜21時、Zoomで実施、参加費は無料です。さらに、実証研究に協力する学校・自治体も募集しています。
💡 先生へのポイント
- 引き継ぎ資料は「手順」だけでなく、「なぜそうするか」「失敗しやすい点」まで残すと継承しやすくなります。
- 校内のノウハウ共有は、まず行事運営や定例業務など比較的標準化しやすい領域から始めるのが現実的です。
- AI導入前に、記録する情報の範囲、匿名化の基準、閲覧権限を校内で整理しておくことが重要です。
- 若手支援の観点では、「答えの提供」より「判断の観点を言語化する」使い方が有効です。
まとめ
今回の共同研究は、生成AIを学校の知識基盤として捉え直す試みです。ベテラン教員の経験を“失われる個人技”で終わらせず、学校全体の学びに変えられるかが今後の焦点になります。
出典:株式会社みんがくと笹埜健斗研究室、「スクールAI」を基盤とした「学校知の継承」に関する共同研究を開始 | 株式会社みんがくのプレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000188.000079497.html




