この度、香港教育局は教員の継続研修150時間のうち、最低30時間をデジタル教育に充てる方針を具体化しました。AIリテラシーだけでなく教科別・学校運営向けまで含む設計は、日本の校内研修や自治体施策を考えるうえでも参考になります。
香港で進む「デジタル教育研修」の制度化
香港教育局は、小中高校におけるデジタル教育の推進策として、教員の継続専門能力開発(CPD)にデジタル教育研修を明確に組み込みました。教員は3年間で計150時間のCPDを行う仕組みの中で、最低30時間をデジタル教育関連の研修に充てることが求められます。
単に「研修機会を増やす」という段階ではなく、既存の教員研修制度の中に一定時間を割り当てる点が特徴です。なお、3年サイクルの初年度に当たらない教員についても、該当年度に少なくとも10時間のデジタル教育研修を受ける必要があるとされています。
研修内容はAIリテラシーだけで終わらない
公開されている研修の枠組みでは、主に「AI Literacy」「AI+Subjects」「AI Leadership」「その他のデジタル教育関連コース」が示されています。ここで重要なのは、AIを一般論として学ぶだけでなく、教科指導や学校経営に接続する構成になっていることです。
実際に9〜10月の注目講座としては、学校でのAI教育の実践ワークショップや戦略計画セミナーが案内されています。ユーザー提示の情報でも、AIを活用した学校経営・計画、AIと理科、AIと数学、AIによる教材作成、評価データ分析、個別学習レポート作成など、授業と校務の両面で使いどころを意識した内容が並びます。
この設計は、教員が「AIを知っている」状態から、「自分の担当教科や校務で使える」状態へ進むための導線として機能しやすいといえます。
外部研修や自己学習も記録対象に
香港の制度では、教育局の研修システムに登録された講座だけでなく、他機関が実施する研修、自己学習型の講座、学術的な学びも条件を満たせばCPD時間として計上できます。教員が受講後に記録を入力し、学校側が確認・承認することで正式な研修時間として認められる仕組みです。
その一方で、何でも「デジタル教育研修」として認められるわけではありません。研修内容がデジタル教育の目的や教員の専門性向上に合っているかを、学校が確認することが前提です。提供機関や受講形式、講座名だけで自動的に判断されるわけではないため、受講前に学校と方向性をすり合わせる運用が重視されています。
教師の役割をAI時代にどう位置づけるか
9月12日の教師の日の式典では、教育局トップが、AIは教育方法を変えうる一方で教師の役割を代替するものではないと改めて強調しました。そのうえで、批判的思考、問題解決、責任あるAI利用を育てる存在としての教師の重要性が示されています。
これは、AI導入を「効率化」だけで語らない姿勢として注目できます。教材生成やデータ分析の自動化が進んでも、何を学ばせるか、どこで疑問を持たせるか、AIの出力をどう検証させるかといった教育的判断は、なお教員の専門性に依拠します。香港の研修設計は、その前提に立って教員の役割を再定義しようとしているように見えます。
日本への示唆は「教科接続」と「時間の明確化」
日本でもAI活用研修は増えていますが、「希望者向けの単発研修」にとどまりやすい面があります。香港の事例が示すのは、教員研修時間の一定割合をデジタル・AI分野に充てるという制度設計まで踏み込むことの有効性です。
加えて示唆的なのが、「AI Literacy」だけでなく「AI+Subjects」を明確に置いている点です。たとえば国語×AI、数学×AI、理科×AI、英語×AIのように、教科担当者が自分の授業に引き寄せて考えられる研修でなければ、実装は進みにくいでしょう。自治体や学校法人、研修事業者にとっては、一般的なAI入門に加えて、教科別・校務別の研修パッケージをどう整えるかが次の論点になりそうです。
💡 先生へのポイント
- 校内研修を組むなら、「AI一般論」だけでなく教科別・校務別に分けると実践につながりやすい
- 研修時間の目安を学校内で先に決めると、受講が個人任せになりにくい
- 教材作成、評価分析、個別支援など、まずは日常業務に近いテーマから始めると定着しやすい
- 外部研修や自己学習をどう記録・共有するかも、運用設計の重要ポイント
まとめ
香港は今回、教員の継続研修の中にデジタル教育を時間数で位置づけ、AIリテラシーから教科・学校経営までを見通した研修体系を整えています。日本でも、教員に「学んでほしい」と呼びかける段階から一歩進み、時間配分と教科接続を伴う設計へ移れるかが問われそうです。
出典:Blueprint for Digital Education in Primary and Secondary Schools - Professional Development Programme in Digital Education - Education Bureau https://www.edb.gov.hk/en/edu-system/primary-secondary/applicable-to-primary-secondary/it-in-edu/debp-pdp.html




