国際連合の専門機関UNESCO(国際連合教育科学文化機関)が2026年のICT教育賞で、AIを単に回答生成の手段として捉えるのでなく、批判的・創造的に向き合う学びへ転換する2つの実践を選びました。授業設計や全校導入のヒントを、学校・自治体・EdTech担当者の視点で整理します。
AI時代の教育で問われる「認知の外部化」
2026年のUNESCO King Hamad Bin Isa Al-Khalifa Prize for the Use of ICTs in Educationでは、AI時代の教育課題に応える2つの取り組みが表彰されました。受賞したのは、北欧フィンランドの「Generation AI」と、ブラジル・パラナ州の「Redação Paraná」。どちらも、AIに思考を委ねてしまうリスクに対し、学習者の創造性や批判的思考をどう守り、育てるかを中心に据えている点が特徴です。
UNESCOは今回の賞の背景として、AIが流暢に文章や分析を生成できるようになった結果、学習者が自らの思考や判断をAIに委ねやすくなる傾向への懸念を示しました。だからこそ教育現場では、速く答えを得ること以上に、時間をかけて考え、想像し、判断する力を取り戻す設計が重要になります。
今回のテーマは、教師と学習者がAIを使いながらも、批判的思考・創造性・想像力を促進する実践の可視化。100件を超える推薦の中から選ばれた2事例は、AI活用の巧みさだけでなく、学習者の主体性や教師の介在をどう組み込んでいるかで高く評価されたといえます。
フィンランド「Generation AI」:受け身の利用者からつくり手へ
「Generation AI」は、東フィンランド大学、ヘルシンキ大学、オウル大学などが共同開発したAI教育プログラムで、2022年に開始されました。特徴は、学習者を単なるAI利用者として扱わず、AIを批判的かつ創造的に形づくる個人・集団へと育てようとしている点にあります。
教材や活動はエビデンスベースで設計され、探究型学習や共同設計のアプローチを採用。学習者の声やエージェンシーを重視し、AIシステムの仕組みや限界、倫理的論点を自分ごととして考える構成になっています。単にAIを使うのではなく、AIを調べ、問い直し、代替案を考える学びに寄せているのが重要です。
UNESCOによれば、教材は50か国以上で20万回超アクセスされ、1,500人の児童生徒・教員がワークショップや学校実践に参加しました。成果として、AIやデジタルメディアに関する科学的推論や倫理的省察、AIの高度な側面を見分け、説明し、批判する力の向上が示されています。
ブラジル「Redação Paraná」:AI添削を公教育の書く力育成へ接続
ブラジルの「Redação Paraná」は、2020年に試行、2021年に本格実施された州規模の取り組みで、デジタルプラットフォームであると同時に公教育政策でもあります。AIを活用して質の高い作文指導へのアクセスを広げ、地域差の大きい環境でも、一定水準の書く学びを届けようとしています。
このプログラムでは、作文と推敲のサイクルを構造化し、AIによるフィードバックと教師の媒介を組み合わせています。ここでのポイントは、AIが教師の代替ではなく、思考を深めるための補助線として位置づけられていることです。生徒は実社会のテーマについて考え、論の組み立てや表現を磨きながら、高次の思考力と記述力を育てていきます。
また、教員研修が制度的に組み込まれている点も見逃せません。教材やプラットフォームを配るだけでなく、授業でどう扱うかまで支援することで、現場実装の再現性を高めています。州全体で約85万人の生徒、2,000校に到達し、批判的思考、論証、創造的な文章表現の向上につながったとされています。
学校現場への示唆は「AI導入」より「学習設計」
2つの受賞事例に共通するのは、AIの新規性そのものではなく、学習者が考える余地を残す授業設計にあります。フィンランドは探究と共同設計を通じてAI理解を深め、ブラジルは作文指導の反復プロセスにAIを組み込みました。どちらも、AIに正解生成を任せきりにせず、問い、比較し、修正する活動を中心に置いています。
日本の学校や塾、教育委員会、EdTech事業者にとっては、AI導入の成否をツール選定だけで判断しない視点が重要になります。学習目標を「効率化」に限定せず、説明する力、根拠を吟味する力、倫理的に考える力まで含めて設計できるかが問われるでしょう。特に、教師のフィードバックや対話をどう残すかは、今後の実装で大きな分岐点になりそうです。
💡 先生へのポイント
- AI活用課題では答えを出す前に、根拠の確認・反論・改善案づくりを入れる
- 生成結果を提出物の完成形にせず、推敲ログや思考の過程も評価対象にする
- 作文、探究、情報、総合学習などで、AIの出力を比較・批評する活動を組み込む
- 導入時はツール説明より先に、「何の力を育てたいか」を教員間で共有する
まとめ
UNESCOの今回の表彰は、AI教育の焦点が使えるようにすることから、考え続けられるようにすることへ移っていることを示しました。学校現場では、AIを便利な補助として使いながらも、学習者の判断・想像・表現を手放さない設計がますます重要になります。




