オーストラリア南東部・ニューサウスウェールズ州(州都シドニー)政府は今年9月、高校卒業資格(HSC)の校内評価で家庭の宿題(自宅実施課題)を大幅に制限すると発表しました。生成AI時代に合わせて「不正検知」ではなく「評価設計」を変える動きとして、日本の定期考査や探究評価にも示唆があります。
評価で「持ち帰り課題」を絞る方針
オーストラリアのニューサウスウェールズ州政府は2026年9月1日、高校卒業資格HSCに関わる校内評価のルールを見直し、自宅で取り組む take-home assessment を最大1課題、かつ学校評価点の15%以内に制限すると発表しました。HSCの成績は学校内評価と外部試験で構成されますが、今回の変更は学校内評価の設計に直接影響します。
現行では、学校内評価のうちどれだけを持ち帰り課題にするかは学校側の裁量が大きい仕組みでした。新ルールではその比率を明確に抑え、評価の中心を学校で把握しやすい活動へ移していく方向が示されました。
背景にあるのは生成AIでの本人確認の難しさ
今回の見直しの背景として州政府と教育基準当局が強調したのは、生成AIの急速な普及です。自宅課題では、提出物がどこまで生徒本人の知識・思考・表現によるものかを確認しにくく、学習の過程や評価の信頼性が揺らぎやすくなります。
発表では、問題は単なる不正防止にとどまらず、学習そのものの保護にあると整理されています。AIに限らず、家庭教師や友人などへ学習を“外注”してしまえば、生徒は本来身につけるべき思考力や創造性、粘り強く取り組む経験を失うという認識です。つまり焦点は「提出物を見破る」ことではなく、「本人の学びが起きる評価に戻す」ことにあります。
代替として認められる評価方法
持ち帰り課題を絞る一方で、学校が使える評価手法は狭められていません。発表では、試験、口頭課題、プロセスダイアリーなど、教科の性質に応じた複数の方法を引き続き活用できるとしています。
これは、完成物だけでなく、途中経過や説明責任、教室内での実演を組み合わせて評価する発想です。たとえばレポートなら、下書き、資料収集の記録、授業内での要旨説明、最終提出物をセットで見る設計が考えられます。生成AIの使用有無を完全に判定するよりも、学習プロセスを可視化するほうが現実的で教育的だというメッセージと読めます。
例外扱いと導入時期について
すべての課題が一律に制限されるわけではありません。HSCの major works は今回の制限対象外ですが、学校には引き続き本人制作であることを確認する責任があります。また、創作系科目や技術系科目、English Extension 2 など、major works の制作過程と結びつく一部の課題も例外となります。
時期としては、今年第4学期にHSC学習を始める2027年卒業予定の生徒に間に合うよう示され、2027年にYear 11を始める生徒にも適用されます。さらに来年以降、2028年HSC以降に向けた教科別の追加ガイダンスも示される予定です。
日本の学校評価への示唆
日本でも、探究学習、レポート、家庭学習課題、定期考査の持ち帰り型課題などで、生成AIとの付き合い方が大きなテーマになっています。その際に注目したいのは、NSW州がAI検知ツールの精度向上に依存するのではなく、評価方式そのものを調整した点です。
今後の日本では、「完成物だけを見る」評価から、「授業内での作業」「口頭説明」「途中経過の提出」「最終成果物」を組み合わせる評価へ移る動きが強まる可能性があります。特に高校の探究、論述課題、入試に接続する記述指導では、成果物の質だけでなく、思考の跡をどう残させるかが重要になりそうです。AI活用を全面禁止するかどうかではなく、どの場面で本人の理解を直接確かめるかを設計する視点が求められます。
💡 先生へのポイント
- 宿題やレポートは「完成品のみ提出」から「構想メモ・下書き・口頭説明つき」に変える
- 探究や小論文では、授業内作業時間を確保し、途中経過を評価に含める
- AI利用の可否を一律に決めるより、「使ってよい場面」と「本人確認が必要な場面」を分ける
- 定期考査や校内評価では、短時間の口頭試問や振り返りシートを組み合わせると実態把握しやすい
まとめ
ニューサウスウェールズ州の今回の対応は、生成AI時代の評価問題に対し、検知よりも評価設計の見直しで応えようとする政策です。日本の学校現場でも、課題の量や形式だけでなく、学習過程をどう評価に組み込むかが、今後ますます重要になりそうです。
出典:New rules for schools on AI in take-home HSC assessments | NSW Government https://www.nsw.gov.au/ministerial-releases/new-rules-ai-education




