英国教育省が、学校で生成AIを使う際のデータ保護上の留意点を整理しました。授業活用だけでなく、児童生徒データの入力可否、評価・試験での責任、調達時の確認事項まで含む内容で、日本の学校・教育委員会にも参考になります。
学校での生成AI活用は「便利さ」だけで判断しない
英国教育省は7月、学校における生成AI利用について、個人情報保護の観点から整理したガイダンスを更新しました。ポイントは、生成AIを授業準備や保護者連絡、時間割作成などに活用できる一方で、児童生徒や保護者、教職員の個人データをどう扱うかを事前に設計しなければならないという点です。
ガイダンスでは、生成AIの利用が適切かどうかは学校の状況によって異なるとし、データ保護責任者やIT担当者に確認しながら進めることを求めています。単に「授業でAIを使うか」ではなく、「どの業務で、誰が、どの情報を入力し、どこまで許可するか」を学校単位で決める姿勢が重視されています。
想定される活用場面と基本原則
学校現場での生成AIの用途としては、授業案、クイズ、復習教材、画像生成、保護者向け文面、事務文書などが挙げられています。ただし、利便性が高い業務ほど、個人情報を混ぜて入力しやすい点に注意が必要です。
英国のガイダンスは、まず学校が承認したツールかを確認し、そのツールが個人データをどう利用するかを理解することを求めています。さらに、生成AIの使用を明示し、出力内容の事実確認を行うことも重要とされています。これは、AIの誤情報や偏りが、学習指導や保護者対応の質に直結するためです。
個人情報は「入れない前提」で設計する
特に実務的なのが、個人情報を含めずにAIを使う例示です。たとえば、保護者への連絡メールの文面作成では、まず匿名化したメモだけをAIに入力し、生成後に児童生徒名や学級名を人手で追記する方法が示されています。
逆に、児童生徒の個人情報をAIツールへ入力する場合は、事前に安全性を確認し、そのデータがAIの追加学習に使われないことを確かめる必要があります。ここが曖昧なまま運用すると、情報漏えいや目的外利用につながるおそれがあります。学校の個人情報保護方針やプライバシーノーティスに、AIツールでの収集・保存・処理の内容を反映させることも求められています。
評価・試験・自動判断はより慎重に
ガイダンスは、AI利用を評価や資格試験と切り離して考えない姿勢も示しています。学習課題や資格評価にAIが関わる場合、学習者と教員の責任範囲を明確にする必要があります。採点補助、記述支援、提出物作成支援などは、利便性が高い一方で、公平性や真正性の確認が欠かせません。
また、子どものプロファイリングや自動意思決定に生成AIを用いる場合は、通常の教材利用以上に厳格な確認が必要です。成績予測、行動傾向分析、支援対象の抽出などは、教育効果だけでなく、説明責任や差別・バイアスの問題も伴います。
調達時に見るべきなのは機能だけではない
生成AIツールは、入力した文章だけでなく、位置情報、IPアドレス、端末情報、ブラウザ情報なども収集する場合があります。こうしたメタデータが第三者提供や商用利用の対象になる可能性もあるため、学校や自治体は導入前に利用規約、保存先、学習利用の有無、年齢制限を確認すべきです。
これは日本の教育委員会や学校法人にとっても重要です。無償ツールを現場判断で広げると、校務と学習の境界が曖昧になり、責任分界が不明確になります。調達基準、利用申請、禁止事項、監査方法まで含めた運用ルールが必要です。
日本の学区教育への示唆
日本でも、生成AI活用は授業研究や校務効率化の文脈で広がっていますが、自治体・学校ごとのルール整備には差があります。英国の整理から学べるのは、AI活用方針を「教育利用」と「個人情報保護」の両輪で設計することです。
学区や教育委員会レベルでは、少なくとも①利用可能なAIツールの承認制、②個人情報を入力しない原則と例外手続き、③保護者・児童生徒への説明、④評価・試験での利用範囲、⑤教職員研修、⑥事故発生時の報告経路を明文化する必要があります。学校単位の工夫に任せきりにせず、自治体として共通ルールを示すことが、現場の安心感にもつながります。
💡 先生へのポイント
- まずは「個人情報を入れずに使える業務」から始める
- 無料AIでも、利用規約と学習利用の有無を確認する
- 保護者連絡文、所見、評価コメントは匿名化テンプレートを用意する
- 児童生徒が使う場合は年齢制限とアカウント管理を必ず確認する
- 評価や提出物でAIを認めるなら、申告方法と禁止範囲をセットで示す
まとめ
英国教育省の今回の整理は、学校における生成AI活用を「便利な新技術」ではなく、「個人情報保護と説明責任を伴う業務設計」として捉えている点が特徴です。日本でも学校単位の判断に委ねるだけでなく、教育委員会や学区がルールと責任範囲を明文化することが、持続的で安全なAI活用の前提になりそうです。
出典:Data protection in schools - Generative artificial intelligence (AI) and data protection in schools - Guidance - GOV.UK https://www.gov.uk/guidance/data-protection-in-schools/generative-artificial-intelligence-ai-and-data-protection-in-schools





